大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和60年(行ツ)140号 判決

上告人

沢田一(X1)

沢英撚糸株式会社(X2)

右代表者代表取締役

沢田一

上告人

沢田正(X3)

江沼孝四郎(X4)

江沼富(X5)

江沼勇(X6)

江沼丈夫(X7)

冨田辰右エ門(X8)

沢田光夫(X9)

林幸夫(X10)

森土岐葭(X11)

木村勲(X12)

早川すみゑ(X13)

後藤進(X14)

大森弘芳(X15)

武田猛(X16)

今枝一義(X17)

右一七名訴訟代理人弁護士

藤井繁

被上告人

江南市土地改良区(Y)

右代表者理事長

大島源一

右訴訟代理人弁護士

大場民男

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人藤井繁の上告理由について

土地改良法(以下「法」という。)一条一項、二条二項等の規定によると、土地改良区の施行する土地改良事業の対象となる土地として当該土地改良区の地区に編入される土地は、非農用地をその対象として行われることが明らかな農用地の造成に関する事業の場合を除いては、原則として農用地であるべきであるが、他方、土地改良施設の新設等に関する事業により宅地等の非農用地が利益を受ける場合や宅地等の非農用地を含む地域について区画整理事業を施行することにより当該地域全体の利益が増進されることとなる場合も考えられるから、このような場合に土地改良区の地区への宅地等の非農用地の編入を一切認めないとすることは相当でなく、土地改良区が宅地等の非農用地をその地区に編入することも法律上許されないものではないと解するのが相当である(なお、このことと法五条七項等の規定により非農用地の地区編入に当たりその所有者等関係権利者の同意を得なければならないこととは別問題であることはいうまでもない。)。右解釈は、法において土地改良区の地区に宅地等の非農用地を編入することを禁ずる規定がおかれておらず、かえつて土地改良区の地区に宅地等の非農用地が含まれる場合のあることを前提とする規定として五条七項、七条四項、八条五項等の規定がおかれていることからも、裏付けられるところである。もつとも、本件に適用される昭和四七年法律第三七号による改正前の法(以下「旧法」という。)には、右五条七項、七条四項、八条五項に相当する規定は存しなかつたが、このことから直ちに旧法は非農用地の地区編入を絶対に認めない立場を採つていたものと即断することはできないのであつて、前述の解釈は旧法下においても妥当するというべきである。

ところで、法六六条は、土地改良区の地区内にある土地がその土地改良区の事業により利益を受けないことが明らかになつた場合にはこれを地区から除外すべきものとしているが、右事業による利益は、所論のように必ずしも当該土地の農用地としての効用の増進にのみこれを限定して解すべきものではなく、個々の事業ごとに当該事業の施行前後の状況を比較して当該土地について事業による何らかの利便の増進がみられるならばその存在を肯認すべきものである。そして、以上の点にかんがみると、従前農用地として土地改良区の地区に編入された土地が土地改良事業の施行中に農地転用の許可を受けるなどして宅地等の非農用地になつた場合にも、そのことのみから当然に右事業による利益を受けなくなつたと解するのは相当ではなく、当該土地について土地改良事業による利便の増進がみられるか否かを個別に検討すべきものであるし、また、右のような場合に非農用地として当該土地を譲り受けた者から新たに同意を得ない限り土地改良事業の継続が許されず当然に土地改良区の地区から当該土地を除外しなければならないということもできないのであつて、これらの点は旧法下においても同様に解すべきものである。

そうすると、以上と同旨の見解に立つて本件各土地につき法六六条にいう「事業により利益を受けないことが明らかになつた場合」に該当するとはいえないとした原審の判断は、これを正当として是認すべきものであり、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原判決を正解しないでその不当をいうか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大内恒夫 裁判官 角田禮次郎 高島益郎 佐藤哲郎 四ツ谷巖)

上告理由〔略〕

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例